謎めも。


どっしりした石炭ストーブの上に置かれた真鍮製のボロやかんが、しゅうしゅう音を立てている。
内側から固く閉じられた――わりに、窓は半開きの――小部屋は、乱雑としか言いようのない汚さと鼻につくカビ臭さ、それにねっとりした闇に支配されていた。
消えかかった獣脂ロウソクの炎に新しいロウソクがかざされ、刹那明るくなる部屋。窓の隙間からかすかな冷気とともに漏れ出てくるのは、夕方前からずっと途切れることなく奏でられている祝い事のための民謡だ。
明るい旋律に単純な(それでいて、ちょいとばかし下品な)歌詞はよく似合う。

ボロヤカンが持ち上げられ、うなるのをやめた。
煮えたぎった湯は挽いた豆が入ったポットに勢いよく注がれる。
とたんに部屋の中に、かぐわしいコーヒーの匂いが立ち上った。

「残り20ページ…か。」

ポットから熱々のブラックを欠けたカップに注ぐと、「そいつ」はまた小さな机の上の古文書と格闘し始めた。