想い出はね、めもしないと忘れちゃうのよ

あれは何歳の頃の事だろう。
二階の両親の寝室には、色々なものがあった。
家に一台しかなかったベッド、レコードプレイヤーとレコード、ビデオデッキ、録画済みのビデオ、そしてそれらを収めた棚。
その棚の上に赤くて小さいテレビが置かれていた。そのテレビの前で兄(上の兄か下の兄かも思い出せない)が、なにやら赤と白の箱から伸びる小さな板を握りしめて、テレビを熱心に見ていた・・・はずだ。(記憶には、その箱は無かった…テレビの画面しか覚えていないのだ)
普段のテレビ番組では決して出る事のない音、自然界ではありえない音色(しかし、私はそれを「音楽」として認識出来た)を出し、小さくてカラフルな光の点々がちまちま動く。どうやらこの点々は人間だったり、オバケだったり、はたまた”もじ”だったりしたらしい(そのころ私はまだ字がまともに読めなかった)。
上記の点々をテレビに映し出し、音楽をテレビから流させる、その赤と白の箱及びその上部に差し込まれたプラスチックの箱が、世間で言うところの「ファミリーコンピューター」と、ゲーム「ファイナルファンタジー」(2か3のはずだが、まともに覚えてないのでどっちでもいい)だった。



一階の台所も、兄二人の主な「戦場」であり、そして末っ子長女の私の「劇場」であった。
二階のテレビよりやや大きく、音量も申し分ない台所の黒いテレビはその後数年お世話になった。
赤いツンツン頭の男が剣を振り、あるいは三角帽子の魔法使いが閃光を放った刹那火柱を叩き付け、オバケの犬や鳥や「どらごん」に4ケタの数字を出させて情けない音と共に消滅させていた。
兄二人、時に兄たちの友人が、テレビの前に数人でしゃがみ込み、戦場=劇場で毎日のように楽しんでいた。
青くて目の大きいロボットの少年が、腕に取り付けられた銃で可愛くてちまちました玩具のようなロボットを打ちまくると思えば、赤い帽子の背の低いヒゲ男が、タヌキのしっぽを付けて優雅に空を飛び回る。ムチ男はゴリラと一緒にグロキモい怪物をぶちのめし、戦車に乗った命知らず共が食中毒を起こしそうな名前のサルの化け物を一網打尽にする。二等身の仮面ライダーがちょっとマヌケな姿で活躍する姿は、なんぼなんでも「特撮ヒーロー」の彼らと脳内では結びつかなかった。
ミニ四駆でバトルするはずがオバケ屋敷でキモい化け物に登場されたときはトラウマになりかけたし、(兄が持っていたマンガで確認したところ)元は美形だったはずの悲劇の悪役が緑っぽい土偶に酷似した姿で登場したときは違う意味で泣くかと思った。中国人の少年兄弟が冒険をするRPGだと思ったら戦闘がアクションでびびらされたりもしたし、あと敵をガンガン食いまくるでっかいガマガエルはちょっと乗りたいと思った。



赤と白の箱が、もっとでっかくて丸みを帯びた灰色の箱になっても、台所や居間が戦場で劇場であったことには変化はなかった。
…本当は、「もうちょっとヘンなモノ」が見られる、薄っぺらいカードを差し込む事で遊べる箱もあったはずなのだが、そちらの方は借り物だったのか今はもう実家にない。あちらの箱もカードの種類が少ないとはいえなかなかファンキーだった。何故かビックリマンのキャラがはね回って冒険していたり、はにわが空を飛んで目と鼻と口だけのキモいバケモンをぶちのめしていたり、通路を上から下までふさぐ程でっかい半裸のねーちゃんの足に踏みつけられないようにくぐり抜けたり、ノリノリの曲が流れる中まるっこくて羽の生えたカワイイ何かがパステルカラーのお空を飛び回り、お店で買い物をしながら16トンの分銅を落としていたり(ラスボスが親だという情報をどうやって幼少時の私が得たのかは知らない。形状あたりから本能的に感じ取っていたのかもしれないが)。



…まだ続くなこのめも…(遠い目)